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「目玉焼きに大真面目」
ギリギリまで布団にこもる。
朝食はいつも急ぎ足。
そんな日常が急転直下。
ある日のこと、朝五時に起床して台所へ。
どうしても目玉焼きが作りたい。
朝ごはんに食べたいんだ。
思い立ったのは、前日の夜。
その目玉焼きなら、食べられるに違いない。
生卵が食べられない。
半熟でも食べられない。
家族はみんな生卵が好きで、すき焼きの際にはかかさない。
でも、私だけが生卵なしで食べていた。
目玉焼きもしかり。
家族一同、黄身がトロリトロリとした目玉焼きをトーストにのせて。
「ラピュタパン」を美味しそうに頬張っていても。
私だけが目玉焼きなしのトーストを食べていた。
知らない人もいるかも知れないので、念のために説明しておこう。
「ラピュタパン」はスタジオジブリの映画『天空の城ラピュタ』に登場する料理である。
パンの上に目玉焼きをのせた非常にシンプルな料理だ。
主人公のパズーとヒロインのシータ。
二人が目玉焼きをパンにのせて食べる場面を見て。
我が家では「ラピュタパン」がブームになったのだ。
しかし、私は目玉焼きが食べられない。
偏食と言われればそれまでだが、どうしても生卵や半熟玉子が苦手だった。
「ラピュタパン」への憧れはあったものの、食べるなんで夢のまた夢だったのである。
周囲が「ラピュタパン」を美味しそうに食べるのを横目でみつつ。
羨ましさをぐっとこらえて、毎朝を過ごしていたのだ。
それから数年たったある日のこと。
私は『美味しんぼ』と運命的な出会いをする。
料理漫画の金字塔として有名なこの漫画にこそ。
目玉焼き難民を救ってくれたエピソードがあったのである。
「黄身と白身」と題された回だ。
目玉焼きについて「国際目玉焼き会議(IFEC)」という世界会議が開催。
全世界75カ国、300人以上の委員が、大真面目に目玉焼きについて熱い討論を交わしている。
そこで知ったのだ。
目玉焼きの焼き方は、大きく分けて2種類あると。
私達に馴染み深い目玉焼きは、「サニーサイドアップ」というらしい。
卵の片面だけを焼き、黄身が半熟になる。
我が家の目玉焼きもこれだった。
そしてもう一種類。
世の中には半熟以外の目玉焼きしかない。
他の焼き方があると疑いもしなかった。
私の固定概念を覆した焼き方が、登場する。
「ターンオーバー」だ。
片面を焼いた後、卵を裏返して焼き上げる。
もう片方にもまんべんなく火を通すから、
黄身を固めに仕上げることができる。
これだ、これが私の求めていた目玉焼きだ。
生卵はダメ。
半熟もダメ。
だけど火を通した卵は大好き。
そんな私の救世主。
これで食べられるんだ、目玉焼きを食べられるんだ。
早く目玉焼きを、「ターンオーバー」を作りたい。
「ターンオーバー」を作って、トーストにのせたい。
明日は早起きして、ラピュタパンを食べるんだ。
こうして、人生初の目玉焼きに挑戦することと相成ったのである。
あれから四半世紀以上の時が流れた。
不惑を迎える年が近づいてきたというのに、人生には惑うばかり。
「四十にして惑はず」の境地には達せれそうにない。
だが、唯一惑わないことがある。
目玉焼きだ。
「ターンオーバー」で焼いて。
塩胡椒を少々。
トーストにのせて、ラピュタパン。
パン皿は、パンのかけらを安心して受け止めてくれる、
少々大きめなものがお気に入り。
初めて作ったあの日から、「ターンオーバー」は朝ごはんの相棒なのだ。
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