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第三回 「1%と99%」
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「1%と99%」

 



アートスペース油亀企画展 ​寺村光輔のうつわ展「陰翳礼讃」DM 


大嫌いだった。
「天才とは1%のひらめきと 99%の努力である」という言葉が。


小学校の先生は、好んでこの言葉を引き合いに出していた。
あのトーマス・エジソンだって努力が大切だと言っていると、卒業するまで何回聞いたことだろう。
そしてこの話を聞く度に、私は何回ひとり言をつぶやいただろう、胸の中で。
つまり99%努力しても、1%のひらめきがないとだめってことじゃない。
1%の才能がある人間なんて、ほんのひとにぎり。
どんなに努力しても1%のひらめきがない人間が、1%のひらめきがある人間にかなうわけないと。


当然、こんな風に思っていたことは、誰にも内緒だ。
努力を否定するようなことを言ったら、怒られるにきまっているから。
こどもたちに努力の尊さを説いていた先生には、その通りですと頷いていた。

アートスペース油亀企画展 ​寺村光輔のうつわ展「陰翳礼讃」DM 

素直に努力を尊べないこどもは、努力が嫌いなまま成長、あきらめの早い人間になった。
頑張ることがとことんいやで、めんどくさがり。
今の自分のスペックで出来る以上のことはしたくない。
平凡な生活、淡々とした日常、ルーティーンな毎日を繰り返すことが、幸せだった。
なにより、変わることが怖かった。
怖かったから、就職のハードルは高かった。
とにかく面接を受けるのが苦痛だった。
いっそこのまま就職せずに、引きこもって生活したいと思ってたいら、案の定、就活は全滅。
就職浪人となり、両親には家でブラブラしてもらったら困ると、強制的に家をだされ、
学生の頃、足繁く通っていた洋食屋「なかそうず」で、働くようになった。
大将も女将さんもお客さんも、もともと顔なじみだったし、仕事内容も難しくなかった。
皿洗い、お運び、会計。
今の自分のスペックでまかなえたから、幸運だったと言えよう。

アートスペース油亀企画展 ​寺村光輔のうつわ展「陰翳礼讃」DM 

朝起きて、出勤、お昼のピークを乗りきって、休憩時間。
そのまま夜のピークを終えて、夜8時に店じまい。
賄いを食べて、家に帰って、テレビを見て、お風呂に入って眠る。
この規則正しい生活をすること、実に3年。
穏やかな日々に満足していたある日のこと。
店に置いてあった雑誌をふとみたら、幼いころのひとり言が、間違いでなかったと判明したのである。
そこにはあの名言について語る、トーマス・エジソン自身が語っていた。


「私は1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄になると言ったのだ。なのに世間は勝手に美談に仕立て上げ、私を努力の人と美化し、努力の重要性だけを成功の秘訣と勘違いさせている」と。


なんということだ。
この真実をもっと早く知っていたら、いや、知っていても今と変わらないか。
努力が嫌いな人間には成長していたと思うけれども、
少なくとも「努力」が奨励される中で、自分が異端児だと、肩身の狭い思いはせずにすんだかもしれないし、
「天才とは1%のひらめきと 99%の努力である」という名言に、素直に頷いていた違いない。
ただ不思議なことに、大人になって改めてエジソンの言葉に向き合ったとき、実は違う感想が湧いてきたのである。

アートスペース油亀企画展 ​寺村光輔のうつわ展「陰翳礼讃」DM 

ひらめきは大事だ。
何よりも大事なことだ。
これがなければ、何も生まれはしない。
生まれはしないけれど、そのひらめきを形にするためには、やっぱり努力が必要なのではないだろうかと。

努力が苦手な自分がこんな風に思うなんて。
こどものころの私は、全く想像していなかったにちがいない。
これはおそらく「なかそうず」の大将の影響だ。


例えば大将が新しいレシピをひらめいて、お店で出そうと決めたとき。
それを形にするために、牧場に通い、畑に通い、自ら漁にでる。
自分が納得するまで、週に一度の休みを朝から晩まででずっぱり。
お店がある日も、早朝も深夜も試作、試作、試作。使っている料理道具の手入れは丹念に。
料理を盛り付ける器も、料理が映えるよりすぐりを選ぶべく、ギャラリーに通っている。
店内は常に清潔に保ち、従業員が気持ちよく仕事ができるように心配りをかかさない。
「なかそうず」の味をお客さんに楽しんでもらうために、必要だと思えることには常に挑戦している。
一体いつ眠っているんだろうとこちらが心配になるくらいだ。
でも、当人はそれを努力とは思っていないようだ。

アートスペース油亀企画展 ​寺村光輔のうつわ展「陰翳礼讃」DM 

さて最後に、今現在の私について。

私は今でも「なかそうず」に勤めている。
気がついたらアルバイトから正社員になり、まかされる仕事がどんどん増えた。
増えたけれど、自分のスペックもそれなりに増えたから、
さほど苦もなくこなせているけれど、
初めて、お店で使う器を選んでこいと大将に言われたときは、
大いに困った。

好きに選んでいいと言われたけれど、それがさらなるプレッシャーを生み、
苦しみ、結果、自分が天才だと思う、陶芸家の器を選ぶことにした。

1%のひらめきを持ち、そのひらめきを形にするための99%の努力を、努力と思わずに楽しめる、あの人の器を。



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